「副業元年」と言われた2018年を境に、世の中の風潮が副業を受け入れる方向に大きく転換しつつあります。実際にここ1年ほどの間で副業解禁に踏み切った例が大手企業の間でも相次ぎ、空前とも言える副業ブームが訪れているのも事実です。
こうした副業解禁の背景には何があるのか、法律上どういう課題があるのかといった点について、副業解禁のメリットやデメリットと合わせて解説します。
副業解禁の背景とは
世の中の流れが副業解禁に傾いて従業員の副業を認める企業の動向が目立ってきている背景には、ここ数年で政府が副業を推進させる方針を打ち出してきたという事情があります。
とは言え国が一方的に副業解禁の流れを作ったわけではなく、多くの会社員が副業できるような情報インフラが整備されてきているという背景も見逃せません。
国が副業解禁へと大きく舵を切った理由
政府が打ち出した副業解禁の方針も、もともとは2016年から国会で議論されてきた働き方改革の原案に含まれていた概念の1つです。
少子高齢化に伴う労働人口の減少と長時間労働の問題解決につながる働き方改革には、多様で柔軟な働き方を普及させるという側面もあります。会社員が副業に取り組むことで個人の収入が増えると同時に新たな事業開拓が推進され、結果的に日本経済の活性化につながるというのが政府の狙いなのです。
副業解禁の風潮を支える土壌も整備
成長戦略を課題としてきた政府がどれほど号令をかけて副業を推奨しても、それだけの仕事が世の中に存在しなければ副業も普及しません。
幸いにして近年ではインターネットの普及を背景に情報交換が活発となり、仕事の募集と応募や需要と供給のマッチングが容易になりました。クラウドソーシングやシェアリングエコノミーの仕組みが整備され、転売ビジネスやアフィリエイトなども含めてさまざまな形の副業が可能になってきています。
そうした情報インフラの整備なしには、副業解禁の大きなうねりも起こり得なかったのです。
副業解禁に関する法律とは
政府が副業を推奨するからには法律上の裏付けも必要になってきますが、現時点では副業に関して明確に規定した法律が新たに施行されたわけではありません。
副業解禁はあくまでも政府の打ち出した方針に過ぎないとは言え、企業の副業解禁に大きな影響を及ぼすモデル就業規則が改定された点は注目すべきポイントです。
厚生労働省のモデル就業規則改定による影響
労働基準法の規定で常時10人以上の従業員を雇用する企業は就業規則の作成義務を持ちますが、その際には厚生労働省の作成したモデル就業規則がガイドラインとなります。
このモデル就業規則も以前は副業を原則として禁止していたのに対し、2018年の改定を経て副業解禁へと変更されました。モデル就業規則そのものには法的拘束力があるわけではないとは言え、改正後に企業の側で副業解禁の動きが相次いでいるのも事実です。
労働基準法の36協定に該当するケース
一方で副業を解禁する際に問題となってくるのは、労働基準法36条に定められた時間外・休日労働に関する「36協定」に違反する可能性があるという点です。
1日8時間月40時間という法定労働時間を超える労働に対して雇用主は割増賃金を支払う義務を負いますが、この規定が適用されるのは本業の会社だけではありません。労働基準法には本業と副業の労働時間を通算すると定められていながら、実際には副業分の割増賃金が支払われていないケースも少なくないと推定されます。
こうした事例に該当するのはアルバイトやパートなど雇用契約を結ぶ形の副業に限られ、クラウドソーシングなど大半の副業は個人事業主に該当して対象外となる点も課題の1つです。
副業解禁のメリットとは
以上のような問題点は残されているとしても、副業解禁が企業と社員の双方にメリットをもたらすという点には変わりありません。
今後もこうした副業解禁の動きが拡大することで日本の社会が大きく変わり、政府の狙い通りに経済が活性化すれば社会全体でメリットを共有できるようになります。
働き手にとっての副業解禁メリット
それまで本業の仕事だけに縛られていた会社員が副業できるようになったことで得られる最大のメリットは、何と言っても収入が増やせるという点です。
特に昨今は働き方改革の影響で残業時間が強制的に減らされ、給料が減って住宅ローン返済が苦しくなったという人も少なくありません。副業で収入が増やせれば生活に余裕が生まれ、精神面の安定にもつながります。
副業は単に収入を増やせるというだけでなく、本業の仕事ではできない新しい分野にチャレンジしたり、スキル向上や人脈拡大に役立ったりするというメリットも見逃せません。
企業の側から見た副業解禁のメリット
副業解禁の動きが相次いでいるのは、副業のメリットが解禁する企業の側にも及んでいる証拠です。
世の中がこれだけ副業解禁に傾いている中で禁止し続けていれば社員に転職される可能性も出てくるため、優秀な人材の流出防止につながる点は企業が副業を解禁する最大のメリットとなります。
副業を積極的に推奨している先進的企業では、社員が副業を通じて新たな情報やスキル・人脈を社内に持ち込んでくれるという副産物も得ています。
副業解禁のデメリットとは
副業解禁には以上のようにさまざまなメリットがある一方で、過半数の企業がいまだに副業を禁止しているのも事実です。
多くの企業が副業を禁止しているのは会社側のデメリットだけでなく、働き手の側にも以下のようなリスクが生じるという理由があります。
働き手にとっての副業解禁デメリット
副業が解禁されたからと言ってすべての人が副業を始めているわけではなく、現状では一部の動きにとどまります。
副業に取り組めば収入が増える反面労働時間が長くなり、過労につながりかねないという健康管理上のデメリットが理由の1つです。
副業で得た所得が年20万円以上に達すると自分で確定申告する必要が生じ、20万円以下でも住民税を申告しなければならない点がもう1つのデメリットとして挙げられます。
企業が副業を禁止する理由
多くの企業が副業解禁で最大のデメリットとして挙げているのは、社員が副業に取り組めば本業の仕事に支障に及びかねないという点です。
社員が副業として選ぶのは本業で培ったスキルを生かせるような仕事が多いことから、会社にとっては情報漏えいや顧客流出などのリスクもあります。人材流出を防ぐ目的で副業解禁に踏み切りながら、副業がきっかけて社員が転職したり独立開業したりするケースも考えられます。
副業解禁にはこうした複数のデメリットがあるために、多くの企業で今なお副業を禁止しているのが実情なのです。
まとめ
副業解禁には働き手と企業ともにメリットがある一方で以上のようなデメリットも無視できませんが、世の中は副業を認める方向へと大きく動き出しています。
企業の副業解禁を受け入れるだけの社会インフラも整備されつつあり、誰でもその気になれば多種多様な副業の中から自分に合った仕事を自由に選べる時代です。
そうした中で政府が目指す副業解禁の動きをさらに加速させていくには、法整備も含めた社会全体の意識変革も必要となってきます。